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原状回復、敷金の返還をめぐるトラブル
多くの場合、原状回復をめぐるトラブルは敷金返還についての争いになります。賃貸人は敷金返還義務と賃借人が負担すべき原状回復義務の費用を相殺することができるからです。通常は賃借人から賃貸人に対して敷金返還を請求し、交渉、法的手続(調停、支払督促、訴訟)をとることになります。ご質問のケースでは、通常の使用であれば、壁に穴が開くことはありませんので、賃借人の故意または過失によって発生した原状回復費用として、敷金から差し引くことが許されるものと思われます。※原状回復・敷金の返還をめぐるトラブルを未然に防ぐには、入居時・退去時に賃貸人・賃借人双方が立ち会い、建物の状況を確認し、チェックリストを作成することが重要です。併せて契約時には、修繕・原状回復の範囲、負担者をできるだけ詳細に決めておきましょう。その際には、国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にするとよいでしょう。
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
家賃増額をめぐる問題
家賃の増額をするには、まずは、賃貸人と賃借人で協議を行います。協議が調わなければ、裁判所での手続(調停・訴訟)で解決することになりますが、まずは、賃料増額請求の意思表示をします。賃料増額の効果が生じるのは意思表示が到達した時点だからです。後日、意思表示の有無が争われないように内容証明郵便で意思表示を行うのがよいでしょう。
裁判所での手続きは最初に原則として簡易裁判所へ民事調停の申し立てを行います(調停前置主義)。次に、調停が不調に終わった場合には、賃料増額請求訴訟を提起することになります。
賃料が増額されるかどうかの判断要素は,土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減,土地若しくは建物価格の上昇若しくは低下,その他の経済事情の変動,近隣の同種物件の賃料との比較等です。
滞納家賃・地代回収方法
家賃(地代も同じ)滞納者に滞納家賃の支払を求めるには、まずは、口頭や書面で支払を求めます。書面の場合は、内容証明郵便で送ると証拠となります。(特に賃貸借契約解除の意思表示を併せて行う場合には内容証明郵便で送るようにしましょう。)。
賃借人が任意の支払に応じなければ、支払督促(※1)や訴訟といった法的手続をとります。支払督促命令や賃借人に支払いを命じる判決が出た後、賃借人の財産に対して、強制執行(※2、預金差押え、給与差押え等)を行い滞納家賃を回収します。
※1 支払督促手続き
支払督促手続とは,簡易裁判所の裁判所書記官が,債務者に対して金銭等の支払を命じる制度です。裁判所書記官は,債務者の言い分を聞かないで支払督促命令を発付します。債務者は支払督促又は仮執行宣言を付した支払督促の送達を受けた日から2週間以内に,督促異議申立てをすることができます(異議申立てがされた場合は通常訴訟に移行)が,督促異議申立てがない場合には,その支払督促は,確定判決と同一の効力を有するものとされ,債権者は,強制執行の申立てをすることができます。
訴訟に比べて手続が簡易で費用も低額ですので,特に争いがない事件の場合には債権回収の有効な手段です。
※2 強制執行手続
債務名義(確定判決,仮執行の宣言が付された支払督促等)に基づいて,強制的に権利を実現する手続です。債権を回収する場合は,債務者の財産を差し押さえることができます。
預金差押えの場合は,債務者が口座を有する支店の特定が要求されますが,現在は,多くの金融機関が弁護士会照会に応じ,全店舗について口座の有無・残高を回答しますので,従来より,支店の特定が容易になりました。
給与差押えは,給与所得者に対する債権回収手段として,有効な方法です。
契約解除・明渡
まずは、家賃滞納者に支払・明渡しを求める通知をしましょう。通常は賃貸借契約解除の意思表示を併せて行い、賃貸借契約を解除します。
家賃滞納者が任意の退去に応じなければ,家賃滞納等を理由として,賃貸借契約解除に基づく建物明渡訴訟(※)を提起することになります。
裁判所で契約解除が認められるには,3ヶ月間の賃料滞納が必要と言われることがありますが,絶対的な基準ではなく,一応の目安です。
※建物明渡訴訟にかかる最短期間の目安(当事務所)
弁護士に相談した後,約2~3週間(訴訟提起)
第1回期日までに1ヶ月程度
判決までに2週間程度(相手方欠席の場合)
判決確定までに2週間
強制執行(申立から2週間,催告後明け渡し(断行)まで1ヶ月間)
<計4ヶ月間>
訴訟は時間がかかると敬遠する方もいますが,上記のとおり,必ず1年2年かかるわけではありません。特に賃借人が長期に亘って滞納しており,争っていない場合には,家賃滞納者とずるずると交渉を続けるより,訴訟手続で確実に退去を実現させて,新たな入居者に入ってもらい,賃料収入を得る方が経済的に有益なことが多いと思われす。
解約・更新拒絶
入居者は賃貸借契約に基づき居住しているのですから、退去してもらうには契約の終了が必要です。立退料の支払、移転先の提供などを条件とすれば交渉で合意解約に応じてもらえる可能性が高くなるでしょう。合意解約ができなければ、賃料の不払や用法違反など債務不履行による契約解除が認められる場合を除き、貸主から契約の更新拒絶や解約をすることになりますが、更新拒絶又は解約が認められるには正当事由の存在が必要です。この正当事由の存否は1.賃貸人・賃借人それぞれの建物使用の必要性、2.従前の経過、3.建物の利用状況、4.建物の現況、5.財産上の給付をする旨の申出(いわゆる立退料)などを総合的に考慮して判断されます(借地借家法28条)。ご質問の件の老朽化に伴う建物建替えの必要性は一般的に正当事由の存在を基礎づける方向の事情となります。しかし、老朽化といっても朽廃に近いものか、防災上危険なものか、修繕可能なものかなど様々ですので、直ちに正当事由が存在すると判断されるわけではありません。結局は前記の事情を総合的に考慮して事例ごとに正当事由の存否が判断されることとなります。
立退料の支払、移転先の提供などを条件とすれば交渉で合意解約に応じてもらえる可能性が高くなるのは借家の場合と同じです。合意解約ができなければ、借家の場合と同じく、賃料の不払や用法違反など債務不履行による契約解除が認められる場合を除き、貸主から契約の更新拒絶をすることになりますが、更新拒絶が認められるには正当事由の存在が必要です。この正当事由の存否は1.賃貸人・賃借人それぞれの土地使用の必要性、2.従前の経過、3.土地の利用状況、4.財産上の給付をする旨の申出(いわゆる立退料)などを総合的に考慮して判断されます(借地借家法6条)。ご質問の賃貸人が息子夫婦と同居するための家を建てるというのは一般的に正当事由の存在を基礎づける方向の事情となります。しかし、この場合でも、直ちに正当事由が存在すると判断されるわけではありません。例えば、賃貸人が他に土地を所有しており、そこに同居のための家を建築することが可能である場合には、賃貸人の土地利用の必要性は低く正当事由が認められないということもあり得ます。結局は前記の事情を総合的に考慮して事例ごとに正当事由の存否が判断されることとなります。
立退料の算定については、相場や一義的基準は存在せず、事案ごとに判断されています。立退料は正当事由の補完要素ですので、一般的に賃貸人への明渡の必要性が高ければ、立退料額は低くなります。立退料算定の要素は、移転経費、借家権価格(土地の場合は借地権価格)、建物価格(土地の場合)、営業補償などです。立退料の算定は、裁判例等を検討した上で、慎重に行う必要がありますので、弁護士にご相談下さい。
賃貸住宅と大家による居室への立ち入り(中日新聞尾張版掲載「暮らしの法律相談」)
入居者の方(借主)は、賃貸借契約に基づき居室を排他的に使用する権利があります。従って、貸主であっても、借主の承諾を得ずに無断で居室に立ち入ることはできません。貸主が無断で立ち入りをした場合、借主の占有権やプライバシー権を違法に侵害したことになり損害賠償義務を負うことになります。また、刑事上、住居侵入罪に該当します。
一方で、借主は、貸主による「保存に必要な行為」を拒むことがでません(民法606条第2項)。「保存に必要な行為」とは、賃貸物を使用・収益に適する状態にするために必要とされる行為であり、通常、雨漏りの修繕はこれに該当します。もっとも、修繕のために、無条件で立ち入りが許される訳ではなく、まずは借主に修繕の内容、所用時間、必要性等を説明して承諾を得るように努めましょう。そのような過程を経ても借主が承諾しない場合には、最終的に、貸主は賃貸借契約を解除することになります。なお、ガス漏れや漏水事故等、非常に高い緊急性が認められる場合に、直ちに居室に立ち入ってガス栓や水道の元栓を閉めるなど適切な措置をとることは「保存に必要な行為」ないし「緊急事務管理(民法698条)」として許されるでしょう。(平成29年6月21日中日新聞全尾張版「暮らしの法律相談」掲載)
賃貸住宅とペットの飼育禁止条項(中日新聞尾張版掲載「暮らしの法律相談」)
一般に裁判例はペット飼育禁止条項の有効性を認めていますが、当該条項の違反があっても直ちに契約解除を認めるのではなく、他の要素も考慮し、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されるに至ったと認められる場合に契約解除を認めています。
例えば、犬や猫の場合、居室や共有部分に汚れや傷が付いたり、騒音や悪臭等で近隣住民に迷惑をかけるおそれがあるため、警告、飼育中止の申し入れにも関わらず之に従わない場合には、契約解除、建物の明け渡し(退去)も認められることが多いでしょう。他方、熱帯魚や小鳥、ハムスター等の小動物で衛生面、騒音面等でも住環境にほとんど影響を与えない場合には契約解除が認められない場合が考えられます。
ペット飼育禁止条項を契約書に記載する場合には、具体的にどのようなペットの飼育が禁止されるのかを明記して将来の争いが生じないように注意しましょう。(平成29年2月15日中日新聞全尾張版「暮らしの法律相談」掲載)
老朽化を理由とした退去交渉(中日新聞尾張版掲載「暮らしの法律相談」)
入居者は賃貸借契約に基づき居住しているのですから、退去してもらうには契約の終了が必要です。立退料の支払、移転先の提供などを条件とすれば交渉で合意解約に応じてもらえる可能性が高くなるでしょう。合意解約ができなければ、賃料の不払や用法違反など債務不履行による契約解除が認められる場合を除き、貸主から契約の更新拒絶や解約をすることになりますが、更新拒絶又は解約が認められるには正当事由の存在が必要です。この正当事由の存否は賃貸人・賃借人それぞれの建物使用の必要性、従前の経過、建物の利用状況・現況,立退料などを総合的に考慮して判断されます(借地借家法28条)。ご質問の件のような老朽化に伴う建物建替えの必要性は一般的に正当事由の存在を基礎づける方向の事情となります。しかし、老朽化といっても朽廃に近いものか、防災上危険なものか、修繕可能なものかなど様々ですので、直ちに正当事由が存在すると判断されるわけではありません。結局は前記の事情を総合的に考慮して事例ごとに正当事由の存否が判断されることとなりますので、専門家にご相談されることをお勧めします。(平成26年3月18日中日新聞全尾張版「暮らしの法律相談」掲載)